ベトナムで求められる質の良い仕事
前のブログをいじっていたら5年前の記事が出てきたのでここに掲載します。いい気づきになればと思います。
この20年ほどで、何百万というベトナム人は貧困から脱してきました。急激な経済成長とその活気のおかげで雇用状況が改善されたためです。1990年代初頭は、ベトナムの人々の58%が極めて貧しく、一日あたり1.10米ドル(現在の物価で約23,000ベトナムドン)以下という暮らしをしていました。けれども、2010年にはその値が10%以下まで下がっています。
最近の世界銀行・IMF会議では、世界各国の首脳陣が2030年までに極度の貧困を世界の3%まで削減することを約束しています。この件に関してベトナムは、順調に目標を達成し、さらに発展が進んでいると言えます。貧困撲滅のためにベトナムが取り組んでいるのは、貧困縮小の迅速化です。特に少数民族が暮らす地域への取り組みを熱心に行っています。
ベトナムの実情として貧困縮小のために必要としているのは、より多くの働き口と、より質の高い仕事です。雇用市場に流入するベトナム人の若い世代が年々増えており、この問題は深刻化しています。2011年末までの10年間で新たなに加わった労働人口は、およそ1千万人以上でした。政府機関が行った最新の予測では、ベトナム人の100万人近くが失業中で、100万人以上が不完全雇用の状態にあるとのされています。そのためベトナムでは、毎年およそ100万件の雇用の創出が求められているのです。また同時に、経済成長の減速化という点についても対処しなくてはなりません。
特にベトナムの15歳から24歳までの年齢層がこの問題の弊害を被っており、失業者全体の半数近くを占めています。ベトナム政府は、迅速かつ包括的・安定的な発展を推進し、格差をなくしていくために、質の高い働き口を、適切な部門に斡旋し、若者世代の希望を叶えなくてはいけないという課題に直面しています。
この問題が特に顕著なのは農村地帯や山間部です。これらの地域では農業従事者が多すぎるため、効率が上がらず、賃金水準の改善がほとんど見込めないのです。昨今の景気の停滞により、多くの人が低賃金で、不安定な、インフォーマルセクターの職業に従事せざるを得なくなっています。また、収入が低く、安定しないことで、生活困難者が増加することとなっています。
この課題には、外的な競争環境も含まれます。ベトナムは、競争力の高い製品の輸出国としのぎを削っていますが、それらのライバル達と同様に、やっかいな構造改革に直面しています。国営企業のさらなる効率化を行うこと、そして、適正な奨励金を支給して民間部門への支援を行い、中小企業を育成することが重要です。課題となっているのは、効率の良い公共部門を作ることです。そのためには、官僚による規制を排除し、民間部門を活発化させて雇用創出を拡大することが求められます。中小企業には特別な配慮が必要でしょう。それは、新規雇用を生み出すために金融サービスを受けられるようにすることです。また、農村部の収入拡大には、政策の近代化・農業の付加価値の向上を実施することが重要です。
そうしたベトナムの未来に向けて、早期幼児教育から高等教育に至るまでの改革は、生涯学習の文化の構築と併せて重要事項です。この場合、適切なスキルがものを言います。世界銀行が行ったベトナムのスキルに関する最新の調査では、雇用者は技術的なスキルだけでなく、クリティカルシンキング・問題解決力などの認知能力や、信頼性・チームワークスキル・コミュニケーションスキルなどの行動スキルも求めていることが分かっています。
政府には、これらの課題に対処するための切り札としての政策レバーがあります。科学・数学・エンジニアリング・調査開発にかける公的資金の増額もその一つです。また同時に、その資金を上手く配分できるよう取り計らう必要があります。例えば、特に貧困層や少数民族の学生向けとした奨学金や学資ローンのための公共支出に、より的を絞ること。それから、大学カリキュラムと起業家活動支援の繋がりを強化するために、選定大学と産業の連携を奨励することです。より質の高い雇用を生み出すという課題は、政府だけのものではなく、次世代のために協力して取り組まなければならない課題であり、全てのベトナム人にとっての使命なのです。
アクセル・バン・トロッツェンバーグ氏は、世界銀行東アジア・太平洋地域総局の副総裁を務めています。